ロンドン発のオシャレ情報誌「TimeOut(タイムアウト)」

1968年にロンドンで地域の情報を発信するシティアガイドとして誕生し、現在は世界39カ国でその地域の優れたヒト・モノ・コト情報を発信する情報誌、そしてメディアサイトを展開しています。
世界で続々オープンするタイムアウトマーケット
そんな「タイムアウト」が最近フードホールである「タイムアウトマーケット」を世界各国に展開させ、話題となっています。

フードホールとは一言で表すと「高級版フードコート」
早い!安い!がウリのファストフードではなく、価格は上がるものの、洗練された料理を提供する人気飲食店を集めて構成された食事スペースです。
タイムアウトマーケットの1号店は、2014年にポルトガルの首都リスボンにオープンしました。その後、ニューヨーク、ボストン、マイアミなどアメリカの各都市でもオープンし、今後はカナダやドバイ、ロンドン、チェコにもオープンすることが発表されています。
世界各国で続々オープンし、人気を博している「タイムアウトマーケット」。
先日、私が住む街ボストンにオープンしたので、早速視察に行ってきました。
ボストンの有名レストランが一同に集結したタイムアウトマーケット
コンクリートの打ちっぱなしで出来たスタイリッシュな雰囲気、広々とした空間。狭い空間に人が密集したフードコートとは全く印象が異なります。

フードコートに入っている店舗の料理は、ファストフードチェーンのハンバーガーやラーメンなど安くてボリュームのあるものが多いですが、タイムアウトで提供しているものは、地元で人気のレストランの料理で、価格も1皿約13ドル(約1,500円)と高めです。
地元メディアの「ボストンマガジン」が選ぶ「BEST OF BOSTON」にランクインした人気店をはじめとした30以上の店舗が入っています。

フードコートの良い点は、一度の色んな店の料理が食べられること。一緒に行った人と食べたいものが異なっても、各々が好きな店の料理を購入して一緒に食べることができます。
また、レストランで食べると1人あたり2万円ほどの予算が必要なレストランや、小さな子供を連れて行きづらいようなレストランも入っているのも嬉しいポイント。
そういった少し敷居の高いレストランであっても、先ずタイムアウトマーケットで1~2品食べてみて、気に入ったら実際の店舗に行ってみる、といった使い方もすることができます。
どのお店の料理にしようか悩んだ結果、「料理界のアカデミー賞」と言われるジェームズ・ビアード賞を受賞したシェフが作った「フュージョンタコス」をチョイス。

海苔を練りこみ油でカラリと揚げたタコス生地に、お米とサーモンの照り焼きを挟んだ摩訶不思議な料理です。タコスとお米。不思議な組み合わせですが、お寿司の海苔がタコス生地に変わったようなもので、お寿司にはない食感が楽しめてるため意外とハマる味です。
飲食店だけでなく、タイムアウトのロゴが入ったTシャツなどのグッズが販売されていたり、過去のタイムアウトマガジンが壁に飾られていたりと、店内の至る所にタイムアウトの存在を感じます。

また、タイムアウトが作成したボストンの飲食店含め観光情報が掲載された冊子も無料で配布されています。

ボストンの最新のレストラン情報から最新のイベント情報まで沢山の情報が掲載された、クオリティの高い冊子となっています。
タイムアウトマーケットで楽しく美味しい充実した時間を過ごすことができましたが、なぜ雑誌であるタイムアウトがフードホールを世界中に展開しているのでしょうか?
その理由について考えてみたいと思います。
雑誌であったタイムアウトがフードホール事業に着手した理由は?
それは、「新たな収益源を獲得するため」だと私は考えます。
今、雑誌業界は苦戦を強いられています。ネットの普及により雑誌の売上は減少し、さらに今まで収益源であった広告収入が、GoogleやFacebookなどグローバル規模のメディアに奪われていっています。
広告収入だけを収益源にしていても勝ち残ることはできない。そう考えたタイムアウトは、新たな収益源を確保するためにフードホール事業へ着手したのではないでしょうか。
オープンから18か月以内でEBITDAが黒字に転じたという、タイムアウトマーケットの1号店となったリスボン店には、昨年3,100万人もの人が訪れており、今やポルトガルで最も人気のアトラクションの1つになっています。

2018年、タイムアウトグループは61,660万ドルの収益を上げたと発表しています。
利益の内訳は、デジタル広告事業が1,880万ドル、Eコマース事業が790万ドルで、印刷広告事業は1,940万ドルでした。
リスボンのタイムアウトマーケットの収益は1,140万ドルで、グループ全体の収益の18%を占めています。リスボン店の成功により、タイムアウトはフードホール事業に可能性を感じており、今後世界各国にタイムアウトマーケットをオープンすることを計画しています。
一部のアナリストは、「2019年末までに、タイムアウトグループの収益の約35%がタイムアウトマーケット事業から来る」と予想しています。
また、タイムアウトマーケットで得られる収益は飲食店の売上だけではありません。例えば、フードホールの正面にある大きなスクリーン画面。ここには街のイベント情報がQRコードと共に映されています。

イベント情報をスクリーンに映し、そのQRコード経由でイベントが申し込まれると、タイムアウトにインセンティブが入る仕組みになっています。
このようにして広告収入も獲得しているのです。
雑誌であったタイムアウトがフードホールを運営するメリットとは?
リスボン店が成功したとは言っても、今小売業界で注目されているフードマーケットにはライバルも多いのも事実。
雑誌であったタイムアウトがフードホール市場に参入して勝機はあるのか?という疑問も生まれてきますが、以下の2点の理由から強みが生かせるのでは、と考えます。
1.各部門が連携することで、収益性の高いフードホールを構築できる
巨大メディア企業であるタイムアウトには、コンテンツを企画するマーケター部門、そしてその企画を形にするメディア部門、収益性を管理するファイナンス部門など、多くの部門が存在します。

日頃、地元の人気レストランをリサーチ・取材しているメディア部門は、地元のレストラン事情を熟知しており、タイムアウトマーケットに相応しいレストランを選ぶことができます。
そして、1度レストランを選んだら終わりではなく、評判や売上を参考にそのレストランと継続契約するか、あるいは別の店舗を誘致してくるかはファイナンス部門で分析します。
また、広い面積を持つタイムアウトマーケットにはイベントスペースなどが存在しています。そこでマーケター部門は、イベントなどフードホールを活用したコンテンツを企画し、集客に貢献することができます。
このようにして、部門間で連携しあうことで、収益性の高いフードホールを構築しています。
2.スペースのみならずプロモーションも提供できるフードホールの構築
その地域の優れたヒト・モノ・コト情報を発信する情報誌、そしてメディアサイトとして高い評価を得ているタイムアウト。

そんなブランド力の高い雑誌やメディアサイトに、無料で情報を掲載してもらうことができるというのは、タイムアウトマーケットに入居を考えているレストランにとって嬉しいこと。
記事の執筆や動画制作を専門としているスタッフに、魅力的な記事を作成してもらい、PRしてもらえるという事実は、地元の有名レストランを惹きつける大きな要素になっています。
メディア業界から飲食店業界に参入するのが今後のトレンド?!
タイムアウトだけでなく、広告収入以外の収益を確保するため、飲食店業界に参入するメディア企業がアメリカでは増加しています。
例えば、レシピ動画を配信している「テイストメイド」がサンタモニカにカフェをオープンしたり、フリーマガジン「VICE MAGAZINE」がニュージャージーにフードホールをオープンしたりしています。

メディアで得た強みを活かし、飲食店業界に参入してくる流れが今後増加してくるかもしれません。